一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
それは、私の誕生日を明日に控えた金曜日のことだった。夕方部長に呼び出された私は、いきなりの異動を命じられた。
「私が、物流センターに?」
物流センターというのは、わが社の商品を保管配送する所だ。場所は都心から離れた所にある。
注文があった医療機器類を、病院や施設に送り、使用中の機器に不具合があった場合は修理のために回収したり代替え機を送ったりする。
そこで何をするといえば、商品管理や配送の手続き。同じ事務作業だけど、仕事の内容は全く違う。
「そう。西尾とも話し合ったんだが、三上まどかをきちんと育てるためにもひとり立ちさせてはという話になってね」
「それと私の異動がどういう関係にあるんですか?」
「三上を一でカウントすると、余剰人員が出ることになる。そこへ、急に物流の事務が急に一人辞めることになって、だったら営業から事務をひとり出向させてはどうかという話になったんだ」
「ひとつ、聞いてもいいですか? どうして私なんでしょうか。チーム編成をスムーズに行うのなら、一番仕事のできない人間を外すべきではないでしょうか。いまさら三上さんを育ってるって、彼女、入社してもう一年以上ですよ?」
いってしまえば、私じゃなく、まどかが移動するべきだ。育てる期間はもうとっくに過ぎた。
「それは、西尾に聞いてくれ。人選は西尾に一任した。俺はそれを認めただけだ」
上手く逃げられた。そう思った。上司でありながら隆の言いなりになってしまっている部長に、私は苛立っていた。
「断ることも出来るんですか?」
「いや、それは出来ない。次の人が見つかるまでという約束ではある。急な話で申し訳ないが、快く引き受けてはくれないだろうか」
快くだなんてムリだ。隆は私が煩わしくなって、どうにかしようと考えていたんだろう。そこへちょうどよく物流センターに欠員が出た。これは、体のいい左遷だ。
「もし、次の人が見つかったら、私はまたここに戻ってこれるんでしょうか?」
「それは、なんともいえないな。我々は、会社の駒だ。命じられた通りに動くしかないんだよ。わかるだろう」
「……もう結構です。失礼します」
私は下げたくもない頭を下げて、ミーティングルームを出た。