一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
それから数分後。菱沼さんは真っ赤な顔をして戻ってきた。
「ごめん、天野。部長のこと、説得できなかった」
声がかすれていた。きっと、必死で部長に掛け合ってくれたんだろう。
「……いいんです。そのお気持ちだけで十分です」
ふと横を見ると、菱沼さんは目に涙をためていた。そんな菱沼さんを見て、堪えていた涙がこぼれ落ちる。
「天野、本当にごめんね。でも待ってて、必ず呼び戻すから」
「はい」
菱沼さんの言葉に、ほんの少しだけ希望の光を見いだせた気がした。
それから私は五時きっかりに退社した。
せっかくの金曜日、このまま沈んだ気持ちで帰るのもなんだし、紘子を誘って飲みに出掛けよう。
「よし、そうしよう」
スマホを取り出すと、ちょうど紘子から電話が掛かってくる。
「はい、もしもし」
《もしもし、由衣子? 今日だから》
「今日だからって、なにが?」
《なにがって、話してた合コン。やっとセッティングできたの。七時に恵比寿の西口に来て。恵比寿像の前で待ち合わせしよう》
「待って紘子。今日は……」
そんな気分じゃない。そう言って断ろうと思ったのに……。
《ごめん、まだ会社だから切るね。遅れないでよ》
紘子はせわしなく電話を切ってしまった。