一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
「……あなたにはもう関係ない、か」
三上さんには聞こえないほどの声でボソリと呟くと自嘲気味に笑った。本当は泣きたかったのでけど、あまりにも情けなくて、笑ってしまったのだ。
私は営業部から排除された必要のない人間。入社以後の四年間の努力がこんな形で評価されることになろうとは。予想すらしていなかった。
「やっぱり泣きたいかも」
すんと鼻を啜った時、菱沼さんが出社してくる。
「おはよう、天野」
私は泣いていたのを気付かれないように、慌てて笑顔を作った。
「おはようございます、菱沼さん」
菱沼さんは私の顔を覗き込むと私の鼻をギュッと摘まむ。
「おい、天野」
「ふぁい」
「今日は外回り付き合ってよ。引継ぎも終わってるし、今日は何もすることないんでしょ?」
コクリと頷くと、菱沼さんは私の鼻から指を離す。
「よーし、決まり。部長が出勤して来たらすぐに許可もらうから」
「私が一緒に行ってもいいんですか?」
「いいのいいの。実は、お世話になってる総合病院の医院長先生から演奏会のお誘いを受けてるの。会社の誰か誘えって、ほらチケット」
菱沼さんはカバンから定期演奏会と書かれたチケットを二枚取り出して見せる。フタバメディカルの顧客は主に医療機関だ。つまり病院長や教授というものと少なからず縁がある。
「これも立派な仕事だよ」
「なら、お供します」
おそらく菱沼さんは私がここに居づらいと思っていることを察してくれたんだろう。外に誘いでしてもらえて本当に良かった。
程なくして出勤してきた部長は、私が菱沼さんに同行することをすんなり許可してくれた。