一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
私は菱沼さんと電車に乗り、演奏会の会場となる小さなコンサートホールにやって来た。案内板には、“プロフェッサーズ・オーケストラ 定期演奏会”とある。
「プロフェッサー?」
「ああ、教授って意味らしいよ。趣味で楽器やってる大学病院の教授や医者でたまに演奏会を開いてるんだって」
「へえ、なんかすごいね」
演奏会というものは、音楽家がするものだと思っていた。趣味で、このような会を開くなんて、スケールが大きすぎる。
会場のロビーには、お祝いの花が並んでいて、受付には着物を着たきれいな女性が立っている。私は緊張しながら受付を済ませて会場に入った。
「ずいぶんと、男の人が多いんですね」
着席した後で、私は先ほどから思っていたことを口にする。
あまりクラッシックの演奏会というものにいったことはないが、会場を見渡すとスーツ姿の男性があまりにも多い気がした。
すると菱沼さんは、「ほとんどが製薬会社の人だよ」と私に教えてくれる。
成る程と思った。みんな仕事上のお付き合いでこの演奏会に来ているのか。
「……大変なんですね」
「営業なんてそんなもんよ」
菱沼さんは苦笑いする。
「ところで今日はどなたのご招待ですか?」
私はパンフレットを開いた。そのくらいは分かっていないと失礼だろうと思って。
「この永峯雄士っていうのがそうだよ」
「永峯総合病院ですね」
契約書や、納品書の作成でよく目にする病院名だった。
「そうそう」
そんな話をしていると、開演10分前になってしまう。
「菱沼さん、私トイレにいってきます」
私はひとり、トイレに立った。案内板をみながらトイレがある方へ歩いていく。すると遠くの方に游さんに似た男性の姿を見つけた。
「游さん? ……まさかね」
でも、あまりにも似すぎている。
追いかけようとすると、その人は、“関係者のみ”と書かれた通路の方へと消えてしまった。