一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~

 すると菱沼さんは、ひとりの男性の前で足を止めた。演奏会では、コントラバスの奏者だった、おそらく。

長身で、日本人離れした堀の深い顔は、英国の映画俳優だと言っても違和感のないカッコよさ。そんな綺麗な顔立ちに、ロマンスグレーの髪がとても似合う。どこかで見たことのある顔だが、誰に似ているのかが思い出せない。

「医院長、今日はお招きいただきましてありがとうございました」

 菱沼さんが声を掛けると、永峯医院長は私たちの方に向き直った。

「ああ、菱沼さん。来てくださったんだね」

「はい。今日は会社の後輩も一緒に連れてまいりました」

 隣にいた菱沼さんに、つん、と肘でつつかれて、私は永峯医院長に向かって頭を下げる。

「はじめまして、永峯医院長。私、フタバメディカルの天野と申します。本日はとても素敵な演奏を聞かせていただいて、ありがとうございました」

「はじめまして、永峯総合病院の永嶺です。菱沼さんにはいつもお世話になっています。ところであなたは、本日の演奏会の曲で気に入ったものはありましたか?」

 そう聞かれて私は、今日の演奏会を思い返した。
どれも素敵だった。その中でもよりいいと思えたものはおそらく“あれ”だ。

「どれも素敵でしたけど強いて言えば最後から二番目の曲、でしょうか。それがとても琴線に触れたというか、心揺さぶられる感じがして好きでした」

「そうですか、それはお目が高い!」

 永峯医院長は、うれしそうにいい、私の肩をポンと叩く。

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