一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
「……もしかして、そうとう有名な曲だったんでしょうか? 私、音楽に疎くて曲名までは存じ上げてなくて、すみません」
おそらくプログラムには書いてあっただろうが、そこまで記憶していなかった。こんなことになるなら、きちんと覚えておえばよかった。
「有名な曲、ではないんですよ。あれは、私のオリジナルです」
オリジナル、ということは、永峯医院長が作曲したということか。
「そうだったんですか? ……すごい」
本音をポロリとこぼすと、永峯医院長は満面の笑みを浮かべた。
「おほめに預かり光栄です。ところで、あなたも今後はうちの病院へ営業に来るのかな?」
「えと、私は……」
そう聞かれて私が口ごもると、菱沼さんが代わりに答えてくれた。
「医院長、彼女は弊社の営業事務担当でして、来月からは物流センターへ出向になる予定でおります」
「そうですか。それは残念ですね。物流センターというと、納品に来たりするのかな?」
おそらく納品に行くのは、配送スタッフと、エンジニア、後は担当営業だろう。私の仕事といえば、発送するものの管理や、納品書の作成までだろう。
「いえ、別のものがお伺いすることになるでしょう」
「なるほど、そうか。せっかくご縁があったのだから、たまにはお茶でも飲みにいらっしゃい。音楽の話をしようじゃないか」
医院長は社交辞令でこういってくれているのだろう。私は、笑顔で答える。
「ありがとうございます。ぜひ、伺います」