一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
永峯医院長への挨拶を終えると、私たちは豪華な料理に手を伸ばす。
お昼を過ぎていたこともあり、とてもお腹がすいていたこともあり、前菜、メイン、と次々に食べ進めていく。こんなにおいしい料理なら、游さんにも食べさせてあげたい――だなんて、ふと彼の顔が浮かんでしまい、私は戸惑った。
こんな時にどうして、游さんが浮かんでくるんだろう。もしかして、私だけおいしい思いをしているという、罪悪感のようなものだろうか。それなら、今日の夕ご飯はほんのすこし豪華にしてあげよう。早く帰ってくるかは分からないけど。
食事会が終わると、菱沼さんと私は会社に戻った。
デスク周りを片付けて、必要なものは段ボールにまとめ、物流センターに送る手配をする。
「部長。四年間、お世話になりました」
退社時間の五分前に、私は部長に最後の挨拶をした。
「みなさんにも、お世話になりました。ありがとうございました」
営業部全員に聞こえる声でそういって、頭を下げる。けれど、誰も何の反応もしてくれない。この営業部には、私との別れを惜しんでくれる人はいないのだろう。
三上まどかと隆は、社内に私の悪口をばらまいた。だから、みんなが私にこんな態度なのも仕方がないことだ。
「お疲れ様、天野。必ずここへ戻ってきてよ!」
菱沼さんは私を抱きしめてくれる。そして、私を会社の外まで見送ってくれた。
「悪いけど、送別会はしないよ! あんたはまたここに戻ってくるんだから」
「はい」
「連絡するから、飲みに行こうね」
「はい」
「じゃあ、また」
「はい。また、ここへ戻ってこれるよう頑張ります」
「うん」
「それでは、お疲れ様でした。失礼します」
私は菱沼さんに頭を下げると、くるりと背を向けた。
菱沼さんはきっと、私の姿が見えなくなるまで見送ってくれていただろう。泣き顔を見られたくなくて、振り返ることが出来なかったけれど、たぶん。彼女はそう言う人だ。
だから必ずまた一緒に仕事がしたい。私は、それを目標に、物流センターでも腐らずにやって行こうと思う。