一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
帰宅ラッシュの人の波に紛れて電車にのると、渋谷で乗り換えて一駅目で降りる。
夕飯の買い出しをするためにスーパーへと足を向けた時、私のスマホが震えた。游さんからのチャットメールだった。私は足を止めて、画面を開く。
「……そっか。遅くなりそうなのか」
そして文末に、夕ご飯は要らないと付け加えてあった。
私は踵を返すと游さんのアパートのある方角へと歩き出す。どうせ帰ってこないのなら、冷蔵庫の有り合わせの食材で夕食を済ませよう。
金曜日の游さんは忙しい。思えば、初めて会った合コンの日もそうだった。仕事を追わらせて、急いで駆けつけたと言っていた。
あれからもう、三週間がたつ。
ほとんどすれ違いの生活で、当初危惧していたことなど起こる予感もない。
そもそも游さんの男性的な部分なんて、見たことがなかった。いつも悟りを開いた僧侶のように、はたまた借りてきた猫のように、あの部屋に存在している。
女として意識されないというのは、安心なようでいて、そうでない。複雑な気持ちだ。
アパートに着くと、シャワーを浴びた。ラフな部屋着に着替えて、冷凍庫にあったご飯をレンジで解凍する。同時に、レトルトの中華丼の元を湯煎にかけた。
私はそれを待ちながら缶ビールを冷蔵庫から取り出して口を付ける。
「あー、うま~」
ぷはっと息を吐き出す。じんと炭酸が胃を刺激する。苦いだけと思っていたこの飲み物が、いつの間にか美味しいと思うようになった。美味しいからつい飲み過ぎてしまう。
出来上がった中華丼を平らげた後、食後にまたひと缶空けた。