一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
游さんが帰宅したのは、九時を過ぎた頃だった。
私はずいぶんと酔っぱらっていて、それを見た游さんは玄関先で「どうしたの?」と声をかけた。
「由衣子ちゃん、そんなに飲んで。もしかして、なにかあった?」
いちばん聞いてほしくないこと。けれど、本当は話したくて仕方がなかったこと。辛い気持ちをぶちまけて、大変だね、可哀想だねって、誰かに慰めて欲しかった。
玄関で靴を脱ぐために、背を向けた游さんに私は抱きついた。
「由衣子ちゃん?」
游さんが一瞬ビクンと肩を震わせた。でも、振り払われることはなかった。
「……私、左遷されるんです」
面と向かっては言えない。だからこうすれば向かい合うことはない。そこまで酔っ払いの私が考えたかは定かじゃなかったけれど、私は游さんの背中に抱きついたまま、元彼のこと、その彼女のこと、会社で間違ったうわさが流れていて、それが原因か分からないけれど、物流センターへと異動になってしまったことなどを洗いざらい話た。
最後のころは泣いてしまって上手く伝わらなかったかもしれない。それでも游さんは何も言わずに聞いてくれていた。