一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
それから私は逃げるようにマンションを出た。
これからどうしようかと地下鉄のホームで小一時間考えた挙句、二子玉川に住んでいる紘子の所へ行くことにした。
彼女も私と同じように大学進学と同時に上京し、今や総合商社に勤めるバリバリのキャリアウーマンだ。
彼氏はいない。聞く話によると、週二の合コンに欠かさず参加しえいるらしい。
「そっかー、かわいそうだったね」
部屋にあげてくれた紘子は、私の話を聞きながら優しく抱きしめてくれた。
「うん」
「別れて正解だよ、そんな男」
「うんうん」
「でもだからって、当たり前のように人んちに転がり込んでくるんじゃないよ、由衣子!」
人差し指で額をつつかれて、私は唇を尖らせた。
「もー、いいじゃん。こんな時に突然上がり込める所なんてないんだから」
「まあ、そうだろうね。それで、いつまでいるつもり?」
「んー、いつまでって、しばらくは置いてほしいな」
私がそう答えると、紘子は呆れた顔をした。
「でた、しばらくは。あんたそう言いながら住みついたりしないでよ」
「しないよ。ボーナス出たら部屋借りるつもり。それまで置いてください、お願いします紘子様」
私は拝むように両手を合わせる。
同棲を始める時に家具を買いそろえたせいで、貯金を使い果たしてしまい、しかもひと月前には旅行にも行ってしまった。ということで、新しい部屋を借りるお金が全然ない。
「ボーナスが出たらね。じゃあ、あとひと月? それなら、いいけど」
「ありがとう、紘子。大好き~」
甘え声で抱きつくと、さも迷惑そうな表情で私の額を指ではじいた。
「こら! そうやって甘えるんじゃない! ……そういえば、どうだった、同窓会」
昨日まで仕事でタイにいたという紘子は、同窓会を欠席した。
「ああ、うん。みっちゃん、結婚するって」
私は聞いてきた友達の近況を紘子に報告する。すると紘子は懐かしそうに目を細めた。
「みっちゃんが。へえ、そうなんだ」
「紘子も出席できたらよかったのにね」
「仕事だったから」
「うん、そうだよね海外出張でしょ? そういうの、カッコいいねってみんなで話していたんだ」
「なにそれー、意味わからんし。今時海外出張なんて珍しくもないでしょう?」
「そんなことないよ、できる女って感じでカッコいい!」
紘子はあははと笑った。つられて私も笑った。
こうしていると、隆のことなんて考えなくて済んで、やっぱり持つべきものは友達だと思った。