ロザリオが飛び散るその日まで
実の妹を愛する兄の純愛
生まれた瞬間から、君は俺の心臓に十字架を突き立てている。
君が天使ミカエルなら俺は双子のルシフェル。
君が聖母マリアなら俺はキリストの父になれなかったヨセフ。
それでも俺は君を愛し続けるパントマイムをやめない。
決して叶うことのない恋だと、人が言ったなら笑ってしまおう。
それが俺のカタルシス。
ほら、窓の外からチャイムが聞こえる。
午後5時を告げるそれに合わせて俺達も歌う。
「なつ兄…」
「何?すみ」
「思い出せないの…」
「そう……ゆっくりで、構わないよ」
何も思い出さないでくれないか。
このまま、俺が嘘で作り上げた世界に閉じ込めていたい。
そうすれば、願いはいつか現実となって俺に突き刺さった十字架を粉々に砕いてくれるから。
「すみ、愛してる」
「なつ兄…。私も……なつ兄が…」
嗚呼、心地好い。
抱きしめると君は小さく震える。
可愛い、俺の妹。
もう怖くないよ。
君を悲しませる全ては死んだんだから。
はる兄も、記憶も、初恋も。
だから俺を選んで、俺を愛して。
義理の兄妹だと偽ることに罪悪感はないけれど、流石に疲れてしまうんだ。
「なつ兄の目…空みたい」
「え?」
「吸い込まれそう…だけど…そのまま、消えちゃいそう…」
君が俺の瞳の中に消えればいい。
俺だけの眼(まなこ)の光となればいい。
そう口に出しても、今ならきっと赦される。
「なつ兄」
「何?」
「もっと、ギュッてして」
「いいよ」
不安なら、いくらでも抱きしめてあげる。
だから俺から離れていかないで。
完璧を演じるのが得意な俺にも、弱点があることに早く気づいて欲しい。
でないと君と二人、熱くて夜も眠れない。
【2016/2/9】