夢想曲ートロイメライー
第2楽章
交わした、約束
安政五年、十一月。
塾に入ってもう一年と半分。
あれから私も皆と一緒に多くのことを考え、学んできた。
塾生達の中には、その学んだことを生かす為に江戸へ遊学している人もいる。
晋作に久坂に栄太郎、俊輔や市も江戸にいる。
……きっと、向こうでも色々なことを学んでいるんだろうな。
晋作や久坂は文で向こうのことを教えてくれるけれど、正直な気持ちを言えば私も一緒に行きたかった。
中心だった人達がいないと、どこか寂しい。
それでも、塾生達の学ぼうとする熱意は変わらない。
今日も講義室がいっぱいになるくらい集まった塾生達。
「今、メリケンやエゲレスを始めとする西洋列強が次々と我が国に開国を迫っています。それを農民や商人達民間の人々はどう考えていると思いますか?」
松陰先生が皆を見回して問いかける。
すぐさま、誰かが答える。
「気が気ではないと思います。西洋の安い物が入ってくれば、一番困るのは彼らです」
「先生、孟子の王道論からすれば今の幕府は失格ではないでしょうか。夷敵を打ち払おうともしていない」
「民を護ろうとしない君主は失格です!!」
皆次々と自分の意見を口にして、たちまち部屋が熱気に包まれる。
入塾したての頃は、この雰囲気に圧倒されてしまったくらいだ。
今日は孟子の王道論について皆で議論している。
先生が一人で自分の考えを述べるのではなく、全員で自分の意見を論じ合う。
これが松下村塾のやり方だった。