究極のお一人様〜ソロウェディングはお断り〜
修吾の威圧感に男は黙って、オートロックを開けて部屋に入って行った。


良かった。大人になったとはいえ、やっぱり不意打ちにあんな風に声をかけられると怖い。何も出来なかったし。


「・・・怖かった」



そう呟いてその場にしゃがみこんだ。修吾が来てくれて追い払ってくれた安心感からなんだかちょっと涙まで出てきた。


ほんと、情けない。あんなのも上手くあしらえないなんて。



「・・・大丈夫ですか?」



「・・・うん、もう大丈夫。ほんと、久しぶりにあんな変なやつに捕まったからびっくりしたけどもう大丈夫」



「・・・無理、してるくせに。ほら、俺が来たからもう大丈夫ですよ」



思い出した。一度、電車で痴漢にあったことがあって、そのときどうしても一人で帰るのが怖くて気がついたら修吾に電話してたんだ。


駅員さんの好意で駅員室で待たせてもらっていたら息を切らした修吾が制服姿で迎えに来てくれて、今と同じ言葉をくれて手を差し出してくれた。



「ありがとう。でも本当にもう大丈夫。それより修吾どこから来たの?このマンションの中から来たわけじゃないし」



でも、今は差し出された手をあえて取らずに立ち上がった。なんとなくその手を取るのが怖かったから。


そして、行き場のない手を修吾はさっとおろして不機嫌そうにこう告げた。



「・・・俺、ここに住んでませんから」
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