海の匂いを感じる時
海の匂いを感じる時
街中でふわっと香るこの匂いに俺は敏感に反応してしまう。
ある時期を堺にこの香りを街中でよく感じる様になったのは、俺が雑誌のインタビューで好きだと言ったからだろうか……なんて自惚れてるな。
実際は以前より俺が敏感になっただけだ。
仄かに海を感じさせる匂い。
爽やかなマリンノートベースの香り。
それはある水族館でしか買えない物で、
東京にいて簡単に手に入るものではない。
だから、その香りがすると振り向いてしまう……彼女なんじゃないかって。
そのオードパルファムをとても気に入っていた彼女は、出掛ける前に必ずひと吹きしていた。
隣にいる時、抱きしめる時、キスをする時
……ふわっと香るその匂いが大好きで。
カラダいっぱいに感じたくて、俺はより一層強く強く抱きしめた。
突然いなくなった彼女。
憎くて仕方ないはずなのに、恨みたいのに、本心がそうはさせてくれない。
思い出すのは優しい笑顔。
いい思い出ばかり。
……ふわっ……
「あのっ」
「はい?」
「……いえ、人違いです。すみません。」
僕はやっぱりこれからも……
その香りに振り向いてしまうだろう。
fin.
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