運命の恋、なんて。
色黒で、髭面、前髪のない長い黒髪を後ろで一つに束ねている男の人。



スーツに不似合いな、清潔感の感じられない風貌。



誰だろう…。



「はい…?」



「ひどいな、俺だよ…八雲」



ええっ!!



そ、そういえば。



ヤスくんにも気づかなかったし、あたし…記憶力には自信がない。



八雲くんって、こんな顔だったっけ…。




見た目があまりに変わり過ぎていて、あのおしゃれイケメンだった八雲くんと同じ人だとは信じられない。




「あー、これ。仕事が忙しくて、なかなか髪も切りに行けなくて。今日もどうかと思ったんだけどさ」



それなら行こうよ、美容室に!!って、そこは個人の自由だから咎めることもできないけどね。



それにしても…。



「久しぶり…だね、八雲くん」



「ああ。元気にしてた?」



ヤスくんから聞いて知ってるよね、今さらあたしになにを確認したいんだろう。



あのとき、ごめんねとか…絶対に言わないだろうけど。



って、言われても困るし、世間話をするほどあたしも平常心でいられない気がしてきた。



ふっ切れたつもりなのに、この動悸はなんだろう。



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