ヒカルハナビラ
当たり前じゃない

秘密

「トオル、キヨ!起きなさーい、遅刻するわよ!」


この日も変わらずこのセリフで始まった。


キッチンからは母が目玉焼きを作る、コンコン、ジュワーッという音が聞こえてくる。


透はこの音が好きであった。


「お兄ちゃん、キヨも歯磨きしたいからちょっと避けて」


「ごめんごめん」


自他共にキヨと呼ぶ少女は妹の清美である。


「気を付けるんだぞ」


心配する父。


「それじゃあ、今日も頑張ってね!」


見送る母。


透が大好きな家族はいつもと同じで変わりは無かった。
しかし受験を控えた高校3年の1月の今日でいつも通りであることはなくなった。



透が学校で自習を終え帰宅するのは20時過ぎでラップのかかった夕食を食べ終えると、また部屋にこもり1時を回る頃まで勉強した後風呂に入って寝る。


これが昨日までの彼だった。


「ただいま。」

「お、おかえりー!」

「母さん達は?」

「今日ね、何かの記念日なんだって、だから2人でお出かけするって18時位に出てったよ!」


ご飯は食べたのかと聞くと冷蔵庫にお兄ちゃんの分もあるよと言い、彼女はまた続けた。


「お兄ちゃんのこのお魚キヨちょっと食べちゃったの。ごめんね…」


ああ、いいよと適当に返答した透は、両親が今デートしている事を思い出し、次は弟も悪くないなどと勝手な妄想を膨らませながら箸を進めた。


そんな時だった。


急にケータイの着信音が鳴り響いた。


背中にゾクッと身震いが走った。
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