CURRENT
もう少し、聞こえないように陰口を言えばいいのに。
だいたい、真面目に仕事をしているだけだ。
「はい、お待たせ。何?」
周りの声をかき消すかのように、笑顔で彼は振り向く。
それにハッとして、菜月から受け取った書類を見せる。
「このぶんなんですが、ここの数字が違っています」
指で示しながら、説明する。
「え?……あー、こないだの分か。確かに違うなぁ」
書類を受け取った彼は、困ったように頭をかく。
「僕が先方に電話しときます。
確実に遅れるから、矢島さんは部長に報告しといてくれる?」
的確な判断にはさすがと思うけど、私にまで“僕”を使われるとは思わなかった。
しかも、2人の時とは話し方まで違うし。
みんなが見ているため、仕方のないことか。