初めましてこんにちは、離婚してください 新装版
プロローグ
鎌倉時代に公家の頂点に立った藤原氏嫡流、摂家の男子直系の血筋として続いた家が、我が結城(ゆうき)家だ。
この世の春は千年近く続いたと聞くが、その威光も昭和初期の金融破綻で泡と消えたらしい。
今から十年前。平成の御世。かろうじて家屋敷とわずかばかりの土地で食いつないでいた結城家に、一人の青年がやってきた。
「お嬢さんと結婚させていただきたい」
いぶかしがる当主に彼は持参していたジュラルミンケースを差し出し、当主の前でそれを開けて見せた。
「結納金とは別に、毎年、彼女の誕生日にこれを送ります」
帯封が巻かれた現金の束に、当主は息をつまらせる。
「はっきり言いましょう。結城の【過去】がほしい。ただそれだけです。お嬢さんは一緒に住む必要もないし、好きなように生きたらいい。俺は一切関知しません」
当時事業に失敗し困窮の極みにいた当主は、周囲の反対を押し切り、その不躾な青年の要求をのんでしまった。
そして一人娘だった私、結城莉央は十六歳の誕生日に、紙切れ一枚で見知らぬ男の妻となったのだ。