走れば君に届く距離
Ⅰ.はじまり
四条中学1年の河原颯(さつ)希(き)は陸上部。
「さつきー?」
「あっ待って、すぐ行く」
友達の明莉(あかり)が声をかける。
慌てて部活のT-シャツに着替える。
部活に行くともう始めている人もいる。
「遅いよー!二人とも!!」
「すみません!」
大事な大会が近付いて、皆が焦ってピリピリしているのを感じる。
まだ、1年生はピリピリというわけではないが、先輩の邪魔にならないように、角で走ったり、基礎をやっている。
颯希はそれが少し物足りないが、他の1年生同様に基礎練習する。
先輩たちのきりがついて、部長から1年生もハードルなどグラウンドを使っての練習が許可された。
颯希は大好きなハードルに一番にとびついて練習する。
「颯希はハードルっ子かい(笑)」と休憩中の先輩から声がとぶ。
颯希は小学生のころから地元の陸上クラブに所属してた。
それゆえ陸上部には颯希にもともとのなじみの上級生が多い。
しかし、この中学校は色々な小学校が集められているため、それが気にいらない子もいる。
だから、颯希は1年生という枠組みの中にちゃんといる。
練習が終わって、1年生が片づけをする。
「橋本先輩、今日も綺麗だったね」と明莉が颯希に言う。
「えー、かみちょ先輩、凄かったって」と颯希が抗議する。
練習あと、先輩たちのフォームについて明莉と話すのが、颯希の定番になっている。
「颯希―、また佐倉先輩にらんでたよー」
「気に入らないんでしょ。でも、佐倉先輩も上手いからな~」
佐倉先輩は、颯希のことをあんまりよく思っていない先輩の一人だ。
「でも、颯希も上手いじゃん」
「んー、上手くなきゃ困るわ(笑)こんなにやってるんだし」
「1年生も大会出してくれればいいのにー」
「年功序列ってやつでしょー」
「会社か(笑)今は結構変わってるっておっしゃっておりますが」
「いいよー、今は1年生の枠に収まってれば、来年からはガンガン行く!」
明莉となんやかんや言いながら他の1年生と一緒に片付けたあと、部室に着替えに行く。
「あたし、1バーン」と颯希が部室の前に来る。
他の1年生もあとを追って走ってくる。
すると、部室から先輩たちの声がしている。
佐倉先輩の声が聞こえるが、なじみの先輩の声も聞こえる。
立ち聞きするつもりはなかったが、「颯希」という単語が聞こえて入れずにいる。
「颯希、調子こきすぎ」
「颯希はハードルっ子だからいいの」
「でも、フォーム、変じゃない?」
「うん、まー形が出来上がってきちゃってるんだから仕方なくない?」
「あの子、足速いのが得だね」
「だったらただの短距離とか長距離でもいいんじゃないの?」
「人のことにとやかく言う暇あったら、自分のこと考えよっ!大会近いんだし」
それで颯希の話は終わった。
そのころには他の1年生も追いついてきて
「颯希、速いわ~」
「あれっ、まだ先輩たち着替え中?」
固まっていた颯希に他の1年生が声をかける。
声をかけられて金縛りが解けたように「あっ、みたいだね」
と外でごちゃごちゃ話していると先輩たちがでてきて「おつかれ~」と口ぐちに言って帰っていく。
「お疲れ様でした。」
颯希はいつもと変わらずに先輩に挨拶する。
でも、明莉の目からは明らかに颯希がおかしく見えた。
颯希自身、心ここにあらずだった。
明莉との二人の帰りに明莉は颯希に「何かあった?」と聞くが、颯希は「いやーなんにも」と空な返事をする。
そのあと明莉はとくに問い詰めず、くだらない話をしてそれぞれの家路についた。
お風呂につかりながら颯希は自分の話をする先輩たちの会話が何度も頭でリピートする。
「そんなに、、、だめかな」
颯希は小学生から陸上をしていて、とくにハードルは大好きだった。
ただ、走るだけでないという所に魅かれていた。
正直、先輩たちのハードルより自分の方が上手いのではないかと思うところもあった。
あのとき自分のことを言っていた佐倉先輩やなじみの先輩たちは確かに上手い。
明らかに颯希自身が認めるくらい。
だが、自分も及ぶほどではないにしろ下手だとは思っていなかった。
だって、ハードルにかける思いは自分のほうが上だと思うし、形がおかしい=下手っていうほどおかしくもない。
だが、はたから見た自分が先輩たちのフォームを綺麗だと思い、その綺麗なフォームを作り出す先輩たちに下手だと、変だといわれたことがショックで仕方がなかった。
「さつきー!いつまで入ってんの?大丈夫??」と母がのぞく。
「あー、大丈夫」そう言って颯希はお風呂から上がる。
「それならいいけど」と母はキッチンに戻る。
颯希は部屋に戻ってもそればっかりが気になって落ち着けない。
こういうときは外にランニングに行く。
最近は部活で疲れて、寝てしまうことが多く行けてない。
「お母さん、ちょっと出てくる」
「遅いんだから、早く帰ってきなさいよ?」
「あーうん」
夜風が顔にあたる。
夏とはいえ、夜風が少し冷たい。
だが、お風呂でほてった身体には丁度いい。
以前使っていたランニングコースではなく、今日は思うがままのコースがいい。
なんにも考えずに走りたくて、思うがままに走っていたらいつの間にか知らない公園につく。
公園の水道で顔を洗う。
丁度目に入った、タイヤをハードル代わりに跳んでみる。
何がおかしいのかわからない。
なぜなら、今までこの跳び方でやってきたからだ。
「何が、、、おかしい?」
泣き声まじりの独り言がぽろっとこぼれる。
すると、後ろに何か人の存在を感じる。
振り向くと、自分と同じようなランニングの服装姿の男性が立っていた。
「あっ驚かせてごめんな」
「あっ、、、いえ」
颯希は帰ろうかと思った。
「ハードル、好きなの?」ふと男性から聞かれる。
疑問が入り混じった不審な目で男性を見ると、
「さっきからタイヤ、跳んでてそのフォーム見て」
より不信感が颯希に生じてくる。
颯希はその男性を足早に急いで帰ろうとする。
ちょっと離れてから、男性のことが気になり公園を出た後でしげみから公園を覗く。
するとさっきのタイヤで自分と同じように練習していた。
そのフォームが、今まで見た誰よりも美しかった。
気づいたら茂みからでて、完全に立ち上がって見とれていた。
私はあなたのフォームに恋をしてしまった。
「さつきー?」
「あっ待って、すぐ行く」
友達の明莉(あかり)が声をかける。
慌てて部活のT-シャツに着替える。
部活に行くともう始めている人もいる。
「遅いよー!二人とも!!」
「すみません!」
大事な大会が近付いて、皆が焦ってピリピリしているのを感じる。
まだ、1年生はピリピリというわけではないが、先輩の邪魔にならないように、角で走ったり、基礎をやっている。
颯希はそれが少し物足りないが、他の1年生同様に基礎練習する。
先輩たちのきりがついて、部長から1年生もハードルなどグラウンドを使っての練習が許可された。
颯希は大好きなハードルに一番にとびついて練習する。
「颯希はハードルっ子かい(笑)」と休憩中の先輩から声がとぶ。
颯希は小学生のころから地元の陸上クラブに所属してた。
それゆえ陸上部には颯希にもともとのなじみの上級生が多い。
しかし、この中学校は色々な小学校が集められているため、それが気にいらない子もいる。
だから、颯希は1年生という枠組みの中にちゃんといる。
練習が終わって、1年生が片づけをする。
「橋本先輩、今日も綺麗だったね」と明莉が颯希に言う。
「えー、かみちょ先輩、凄かったって」と颯希が抗議する。
練習あと、先輩たちのフォームについて明莉と話すのが、颯希の定番になっている。
「颯希―、また佐倉先輩にらんでたよー」
「気に入らないんでしょ。でも、佐倉先輩も上手いからな~」
佐倉先輩は、颯希のことをあんまりよく思っていない先輩の一人だ。
「でも、颯希も上手いじゃん」
「んー、上手くなきゃ困るわ(笑)こんなにやってるんだし」
「1年生も大会出してくれればいいのにー」
「年功序列ってやつでしょー」
「会社か(笑)今は結構変わってるっておっしゃっておりますが」
「いいよー、今は1年生の枠に収まってれば、来年からはガンガン行く!」
明莉となんやかんや言いながら他の1年生と一緒に片付けたあと、部室に着替えに行く。
「あたし、1バーン」と颯希が部室の前に来る。
他の1年生もあとを追って走ってくる。
すると、部室から先輩たちの声がしている。
佐倉先輩の声が聞こえるが、なじみの先輩の声も聞こえる。
立ち聞きするつもりはなかったが、「颯希」という単語が聞こえて入れずにいる。
「颯希、調子こきすぎ」
「颯希はハードルっ子だからいいの」
「でも、フォーム、変じゃない?」
「うん、まー形が出来上がってきちゃってるんだから仕方なくない?」
「あの子、足速いのが得だね」
「だったらただの短距離とか長距離でもいいんじゃないの?」
「人のことにとやかく言う暇あったら、自分のこと考えよっ!大会近いんだし」
それで颯希の話は終わった。
そのころには他の1年生も追いついてきて
「颯希、速いわ~」
「あれっ、まだ先輩たち着替え中?」
固まっていた颯希に他の1年生が声をかける。
声をかけられて金縛りが解けたように「あっ、みたいだね」
と外でごちゃごちゃ話していると先輩たちがでてきて「おつかれ~」と口ぐちに言って帰っていく。
「お疲れ様でした。」
颯希はいつもと変わらずに先輩に挨拶する。
でも、明莉の目からは明らかに颯希がおかしく見えた。
颯希自身、心ここにあらずだった。
明莉との二人の帰りに明莉は颯希に「何かあった?」と聞くが、颯希は「いやーなんにも」と空な返事をする。
そのあと明莉はとくに問い詰めず、くだらない話をしてそれぞれの家路についた。
お風呂につかりながら颯希は自分の話をする先輩たちの会話が何度も頭でリピートする。
「そんなに、、、だめかな」
颯希は小学生から陸上をしていて、とくにハードルは大好きだった。
ただ、走るだけでないという所に魅かれていた。
正直、先輩たちのハードルより自分の方が上手いのではないかと思うところもあった。
あのとき自分のことを言っていた佐倉先輩やなじみの先輩たちは確かに上手い。
明らかに颯希自身が認めるくらい。
だが、自分も及ぶほどではないにしろ下手だとは思っていなかった。
だって、ハードルにかける思いは自分のほうが上だと思うし、形がおかしい=下手っていうほどおかしくもない。
だが、はたから見た自分が先輩たちのフォームを綺麗だと思い、その綺麗なフォームを作り出す先輩たちに下手だと、変だといわれたことがショックで仕方がなかった。
「さつきー!いつまで入ってんの?大丈夫??」と母がのぞく。
「あー、大丈夫」そう言って颯希はお風呂から上がる。
「それならいいけど」と母はキッチンに戻る。
颯希は部屋に戻ってもそればっかりが気になって落ち着けない。
こういうときは外にランニングに行く。
最近は部活で疲れて、寝てしまうことが多く行けてない。
「お母さん、ちょっと出てくる」
「遅いんだから、早く帰ってきなさいよ?」
「あーうん」
夜風が顔にあたる。
夏とはいえ、夜風が少し冷たい。
だが、お風呂でほてった身体には丁度いい。
以前使っていたランニングコースではなく、今日は思うがままのコースがいい。
なんにも考えずに走りたくて、思うがままに走っていたらいつの間にか知らない公園につく。
公園の水道で顔を洗う。
丁度目に入った、タイヤをハードル代わりに跳んでみる。
何がおかしいのかわからない。
なぜなら、今までこの跳び方でやってきたからだ。
「何が、、、おかしい?」
泣き声まじりの独り言がぽろっとこぼれる。
すると、後ろに何か人の存在を感じる。
振り向くと、自分と同じようなランニングの服装姿の男性が立っていた。
「あっ驚かせてごめんな」
「あっ、、、いえ」
颯希は帰ろうかと思った。
「ハードル、好きなの?」ふと男性から聞かれる。
疑問が入り混じった不審な目で男性を見ると、
「さっきからタイヤ、跳んでてそのフォーム見て」
より不信感が颯希に生じてくる。
颯希はその男性を足早に急いで帰ろうとする。
ちょっと離れてから、男性のことが気になり公園を出た後でしげみから公園を覗く。
するとさっきのタイヤで自分と同じように練習していた。
そのフォームが、今まで見た誰よりも美しかった。
気づいたら茂みからでて、完全に立ち上がって見とれていた。
私はあなたのフォームに恋をしてしまった。