同期がオトコに変わるとき
鬼畜な男
「えええ!?」
思わず大きな声が出てしまい、慌てて口を押える。
ここはBAR『canon』。
茶色を基調にしたインテリアの店内にはジャズが静かに流れていて、雰囲気が穏やかでとても居心地のいいところだ。
来ている客もみんな酒と会話を静かに楽しんでいて、大きな声を出す人は一人もいない。
はしたない声を出してしまったと周りを見れば、カウンター席に座っている私たちのほかにはテーブル席に3組のお客さんがいた。
みんな上品に談笑していて、自分たちの世界に入っているようで私の声に反応している人はいない。
ホッと胸を撫で下ろし、できるだけ声のトーンを落として隣に座っている男、真辺拓哉に問いかける。
「うそでしょ、もう別れちゃったの?いつ?」
「先週。なんか思っていたのと違うって、振られた。“付き合ってくれないと死ぬ!”っていうから付き合ってやったのに。ったく、勝手だよな」
そう言って真辺はウォッカをクイッと飲んだ。
のどぼとけが上下に動く様が妙に艶っぽくて、ちょっと見惚れてしまう。
グラスを持つ骨ばった指は長く、甲には血管が浮き出てて男の手だと主張している。
多分、腕もそんな感じなのだろう。
背が高く目鼻立ちがすっきり整っていて、外見は私の好みだ。
しかも営業課に所属している彼の成績はいつもトップで将来有望、俗にいうイイ男なのだ。
性格を除けば、なのだけど・・・。
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