同期がオトコに変わるとき

「ありがとう、真辺。ちょっとびっくりしたけど、こんな素敵な寄り道だったらいつでも大歓迎だよ」


いつでもと言っても、どちらかに恋人ができるまで、だろうけど。

考えてみれば飲み以外で真辺と出かけたことなんて、今まで一度もなかった。

これが最初で最後かもしれない。

話しかけたのに反応がないので隣を見ると、彼は目をつむっていた。


「真辺、寝てるの?」


ポンと肩をたたいたら体がこちらに傾いてきた。

思わず身をのけぞると、ゆっくり倒れてきた頭部が私の膝の上にポテンと乗った。

春のそよ風に吹かれ、少し長めの髪がさらさらと揺れる。

男のくせにまつ毛が長くて肌が綺麗。

こんな至近距離でじっくりと真辺の顔を観察するのは初めてだ。

最近は妙に近づいてくるけれど、いつもドキドキしてしまって、まともに顔を見て話せないから。

毎回平気なふりをするのが精一杯。

そんなこと、真辺は知らないんだろうな・・・。


風に揺れる髪をそっとなでてみると、思ったよりも柔らかかった。

こんなところで平気で寝てしまうなんて、きっと疲れているのだろう。

繁忙期に向けて営業はすごく忙しいから。

だけど日が当たっているとはいえ夕暮れに近くて、このまま眠っていると風邪をひいてしまう。

よく眠っているから本当は起こしたくないけれど・・・。


「真辺、起きて」


何度か肩をたたいていると、小さなうめき声を出してゆっくりと目を開け、パッと体を起こした。


「あー悪い。寝ちまっていたな・・・そろそろ帰るか」


帰り際に寄ったわくわくショップで、真辺は大きなウサギのぬいぐるみを買った。

多分、気になる子にプレゼントするのだ。


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