同期がオトコに変わるとき
「あー、楽しみとか、俺、そんなこと思いもしねぇ。会話続くとか言われても、俺仕事中なんだけど。ったく、女って面倒だな」
そう言ってまたウォッカをクイッと飲んだ。
ネクタイを緩めた襟からのぞく喉と、グラスをもてあそぶ指がとても色っぽい。
彼はこうして一緒に飲んでいても、私がちょっと席を外したすきに女性に声をかけられていることが結構ある。
このだだ漏れの色気に女は惑わされるのだ。
「ねえ、マスター?マスターもそう思うっしょ?」
突然投げ掛けられた問いに、白髪交じりの頭髪に口髭のマスターは私をちらっと見た後、にこやかに答えた。
「いいえ、ちっとも面倒とは思いませんね。女性を喜ばせるのが、イイ男の条件ですよ?」
「違う意味での“喜ばせる”なら自信がある。それだけで十分じゃねえの?」
「言いますねー。でも振られたんでしょう?」
「彼女とはまだヤってねぇよ」
「そうですか。意外と手が遅いんですね」
マスターと同じく、本当に意外でびっくりする。
長く付き合っててもそこまで立ち入った話はしないから、てっきり自分の彼女だと決めたその日に抱いていると思っていた。
もしかしてキスもしてないのだろうか。
「何言ってんだ。これが普通だろ」
憮然として言う真辺に対して、マスターはすみませんと言って苦笑いながら力強くシェイカーを振って、グラスにピンク色の液体を注いだ。
「どうぞ、ピンク・レディです」
「え、私頼んでないですよ?」
「俺が、頼んだ」
「真辺が?いつの間に・・・ありがとう」