こちら、私の彼氏です
しばらく愛理の下ネタトークに付き合わされ…々飲み始めてから約二時間経った頃、この飲み会はお開きとなった。

……飲み会としては決して長い時間ではなかったはずなのに、二十四時間くらいに感じた。



店を出ると、愛理と弘樹さんはふたりでどこかべつの店でもう少し飲んでいくと言った。



「じゃあ、私と伊山、くんは帰るから駅に行くね」


私は愛理と弘樹さんにそう伝えて、背を向けようとしたけど。



「……ゆうちゃん」


なぜか眉間にしわを寄せた愛理に名前を呼ばれた。



「な、なに?」

「ゆうちゃん、なんで伊山さんと手つながないの?」

「え?」

「ゆうちゃん、彼氏とは手つなぎたい派だって昔から言ってたじゃん」


……なんでつながないのかと聞かれれば、伊山とは本当は恋人同士ではないから、というほかないのだけれど……

……愛理のこの表情、もしかして、私と伊山が本当の恋人じゃないって感づいてる⁉︎


……と思ったけど、愛理は伊山の方を見て。


「伊山さんは、彼女と手つなぎたくない派なんですか⁉︎ かわいそう、ゆうちゃんがかわいそう!」


……感づいてるわけじゃなかったのならよかった。
でも、このままごまかしてたらそれはそれでやっぱりバレちゃうかも……。


そう思った、その瞬間。



ーーぎゅっ。


「!⁉︎」

伊山に突然手を握られ、私はバッと伊山に振り向いた。



伊山はなんてことないような表情で、


「人前だと手つなぐのちょっと恥ずかしいんですよ。でも、夕香が手つないでた方がいいなら、今後はなるべくつなぐようにしますね」


……と愛理に答えた……。
いや、ありがたいよ……思わず動揺しちゃった私の代わりに冷静にそう言ってくれて……。


でも、手。
ただでさえ握られてることにドキドキしてるのに、ぎゅって、強く、握るから。



……ただの演技なのに、顔が、熱くなりそうで……。
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