こちら、私の彼氏です
その後、愛理たちに今度こそ背を向けて、私たちは駅までいっしょに向かうけど。



「……伊山、手」

愛理たちとは別れたのに、まだ手をつないで歩く伊山に、私はぼそっとつぶやくように言った。



「もしかしたら愛理ちゃんがまだこっち見てるかもしれないだろ。もしそうだったら、いきなり手離したら不自然」

「そ、それはそうだけど……」


伊山の言ってることはもっともだ。私だって、本当は今手を離すべきじゃないのはわかってる。


わかってるけど。なんか、手をつないでる時間が続けば続くほど、胸が、ドキドキしてしまって……。


この感情は、なに?



「……今日は、ありがと」

手をつないで駅まで向かう途中、私は伊山に、またしてもぼそっとした声でお礼を言った。


本当は、もっと素直に、もっとかわいくお礼を言うべきだ。伊山は今日、私のために無償で協力してくれたのだから。本人は、『この前泣かせたお詫び』と言っているたけど、実際は私が私の都合で勝手に泣いただけだし。


だけど伊山は。


「おう」


とさらっと答えてくれた。



……なんだろう。お礼を言って、返事をしてくれたっていうごく普通の流れなのに、なんかうれしさを感じた。


……伊山と並んで歩くことはよくあるけど、手をにぎってるから、いつもより距離が、近い。
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