こちら、私の彼氏です
「あ、あのさ」

「ん?」

「今日のお礼は、後日、必ずするからね」

私は、今度は素直に、伊山にそう伝えた。
渋々でも不本意でもない、本当に素直な気持ちで、”伊山に借りなんて作ってたまるか”とかの、意地やプライドからくる感情とかじゃなかった。


でも、伊山は。

「気にすんなよ。俺もまあ、楽しかったし」

「楽しかった?」


私はさきほどまでの飲み会の様子を思い出し、伊山が『楽しかった』と思えるポイントを探した。

……ダメだ、思いつかない。伊山はなにが楽しかったのだろうか。


私が尋ねると、伊山は。



「いや、愛理ちゃん、ちょっと天然ではっちゃけてるけどいい子じゃん。お前の友だちなら悪い子じゃないのはわかりきってるけど。
弘樹さんもやさしそうな人だったし、とくになにがってわけじゃないけど普通に楽しかったよ」

「そっか。仲のいい友だちとその旦那さんを褒められるのは、私もなんだかうれしいよ」

「それに」

「それに?」

「俺も最近は仕事ばっかでずっと彼女いなかったし、久しぶりに彼女できたような気がして楽しかったわ」


さらっとそう言われて……少し落ち着いていた顔の熱が、またボッと熱くなる。
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