こちら、私の彼氏です
駅に着くと、伊山は電光掲示板で私と伊山がそれぞれ乗る電車の時間を軽く確認してから、

「じゃ、俺あっちのホームだから。送ってかなくても、まだ遅い時間じゃないし、大丈夫だよな?」

と、言うけど……。


「う、うん……」

「ん?」

「……手」

「え? あ、悪いっ!」

伊山は慌てて私の手から自分の手を離した。握っていることを、忘れていたらしい。

……べつに、そんなに動揺して離さなくてもいいのに。


私もちょっと酔いがまわってるけど、手を握ってるのを忘れるくらい伊山も酔ってるみたいだ。おかしいな、居酒屋では緊張してて全然酔えないと思ってたはずなのに。お互い、愛理の下ネタトークに突入した頃から、動揺とか気まずさをごまかすために無意識にお酒に手が伸びていたのかもしれない。


……伊山の顔がさっきよりも少し赤く見えるのは、きっとお酒のせい。伊山の手が離れたあとも、自分の手に残った伊山の感触をやたら気にしてしまっている私も、きっとお酒のせいでおかしくなっているだけだ……。



そうしてそのまま伊山と別れ、電車に乗り、帰宅した。

ひとり暮らしのアパートは、この時期、家に入ると寒くって仕方ない……けど、今日は顔が火照っているせいかとくに寒さを感じなかった。


体も寒くないし、愛理もなんとかごまかせたし、それに……伊山と普通に話せたことになんだか安心して、もうお風呂にも入らずにこのまま寝てしまおう……と、私は敷きっぱなしにしていた布団にうつぶせにダイブした。



……布団に入ると、いつもだったらすぐにまぶたが重くなり、睡魔がやってくる。

でも今日は、疲れているいるはずなのに、すぐに寝たいはずなのに、なぜか、なかなか眠くならなくて……。


……無理やり目をつむれば、浮かんでくるのはなぜか伊山の顔。


するとなぜか胸がドキドキしてきて、ああ、心臓の動きが良好じゃなくなるくらいお酒を飲んでしまったのか……とよくわからないことを思いながら、私は必死に就寝を図り、しばらくしてようやく浅い眠りについた。
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