こちら、私の彼氏です
私がカルトンを受け取ったのを確認すると、伊山はそのまま、手元の書類に目線を戻した。


……すぐに目線を外されたことが、なぜか少し寂しく感じた。
べつに、わざと逸らされた、とかではないのに。



「え、まだなにかある?」

その場から動かない私を、伊山は不思議そうに振り返った。



「い、いやなんでもない」

「そう?」

伊山は不思議そうな顔をしつつも、やっぱり視線はすぐに書類に戻った。


書類を作成する伊山の横顔を見つめる。

その視線を少しずらせば、電話中の営業課の係長と、過去の決算書ファイルを真剣に読んでいる後輩の男の子。係長も後輩の男の子も、私の方はとくに見ていない。


伊山ともう少し話したいと感じてしまうような、そんな変な気持ち。
でも、お互い仕事中だからそういうわけにもいかない……。

だから……。


「……来週の金曜日、ヒマだったら空けといて」

私は伊山の耳元に顔を近づけ、そっと誰にも聞こえないように小さな声でそっとそう伝えた。



伊山と話したい。でも仕事中は当たり前だけどゆっくり話せない。
だから、仕事外でそういう時間を作りたい。

改めてお礼もする、という話もあるわけだし、誘ったところで伊山はとくになにも思わないはずだ。




本当は来週じゃなくて、今週とか、少しでも早くその日が来てほしい。だけど今週は営業課はスケジュールがびっしりと詰まっていて伊山が大変そうだから、来週にしよう。
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