こちら、私の彼氏です
「ねぇ、この服はどう?」

愛理が、ハンガーにかかった洋服を何着も両手に、私のもとへとやってくる。



土曜日。私は愛理といっしょに、とある洋服店へと着ていた。



「うーん、これとこれは伊山の趣味じゃないと思う。
ちょっとかわいすぎるんだよね……あー、でも案外このくらいかわいい方が好きな気もする。
どう思う?」

「え、知らないよ。ゆうちゃんが知らないことを私が知るわけないでしょ。ていうかゆうちゃん、なんで伊山さんの好み知らないの? そういう話しないの?」


あ、ヤベ。
そりゃそうだ。これじゃ、私は伊山のことをなにも知りません、と言っているのと同じだ。



「あとさ、この前は伊山さんのこと、『伊山くん』って呼んでなかった? 呼び捨てすることになったの? じゃあなんで下の名前で呼ばないの?」

「え、う……今さら下の名前は、恥ずかしい、から?」

「なぜに疑問系?」

「はは……」


なにげに鋭すぎる愛理の質問を、私はギリギリのところでなんとかかわす。
ダメだ、気を張っていないと今にボロが出そうだ。



今日は、今度の金曜日に伊山と飲みに行く時の服を買いに来ていた。
本当はひとりで来るつもりだったけど、ひとりで選ぶことに急に不安になり、オシャレに詳しい愛理に来てもらった。

愛理は、私の急な呼び出しにも嫌な顔せずに出てきてくれた(家にいてもなにもすることがないし、と話す愛理には、少しは家事をしなさい、と言いたくもなるけど)。

最初は、伊山と出かけるのは本当は来週じゃなくて今週がいい、と思っていたけど、着ていく服のことを考えたら、こうしてゆっくり買いものができる時間がある分、むしろ来週でよかったかも。
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