こちら、私の彼氏です
「なんか、エロイな、その服」

「……」


伊山との約束の日。私たちは仕事が終わったあと、この間と同じ居酒屋でふたりで飲んでいた。

ふたりでいるところをなるべく会社の人に見られないようにするため、会社からいっしょに居酒屋へは向かわず、現地集合でここまで来た。

居酒屋は会社からは離れているし、完全な個室でふたりきりだから、ここで会社の人と出くわすことはまずないと思う。



そんな中、飲み始めてすぐに、私は伊山に「エロイ」と言われたのだった。



私の着ている服は、もちろんこの間、愛理に選んでもらったワンピース。
伊山はおそらく、透けている袖の部分を見ながらそう言っているのだと思う。



「べつにエロくないじゃん、長袖だし」

「いや、エロいって。透けてて、なんか」

「どんだけエロ魔人なの? 透けてるの流行りなんですけど」

「あー、なんかそういう透けてるファッションに名前あったよな。なんだっけ、ブルースリーだっけ」

「シースルーなんですけど。なんなの、全然合ってないけど」

「ああ、それそれ。いいじゃん、エロいけどかわいい」

「……」

まったく感情のこもっていないであろう『かわいい』という言葉なのに、私はなぜか、それをうれしく感じてしまった。
『エロい』より『かわいい』と言われた方がうれしく感じるのは普通の反応だと思うけど、たぶん、伊山に『かわいい』って言ってもらったことが、こんなにうれしいのかな……。



ずっと、伊山をライバルだと思って接していた。

でも、伊山と初めて会ったばかりの頃の自分は、伊山のことを異性として気にしていた。
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