こちら、私の彼氏です
距離感に悩んでると言っても、べつに仲が悪いわけではないし、お互いを貶めあったりとか、嫌がらせをしたりとか、そういうことはもちろんない。


だけど、私は伊山に素直にやさしくなれずにいた。

いつも、上司たちから伊山と比べられて、悔しい思いをしてきた。
だから、そんな伊山に対して、“やさしい女性社員”になれずにいた。



……入社したての頃は、まだこんなんじゃなかったんだけど。





『同期の男子の中で、誰が一番タイプ?』



まだ入社して間もない頃、同期のとくに仲のいい女の子たち数人で仕事終わりに居酒屋で集まって、そんな話をしたっけ。

みんなそれぞれの支店に配属されているから、お互いの仕事の近況を報告し合ったり、仕事の愚痴を言い合ったりもして、楽しい時間だったのを覚えている。


そして、飲み始めてしばらく経った頃、同期のひとりがそんな話題を切り出したのだった。



『伊山くんかな』

私は特に迷うことなく、そう答えた。




私は昔から、“仕事のできる男性”が好みのタイプだった。

高校時代に好きだったのは、当時アルバイトしていたファミレスの店長さんで、大学時代に好きだったのは、これまたアルバイト先のアイスクリーム屋で私の指導係をしてくれていた先輩だった。

ふたりとも店内で評判の、いわゆる“仕事のできる男性”で、好みのタイプそのものだった。

ファミレスの店長には完全な片想いで終わったけど、アイスクリーム屋の先輩とは、私から告白して付き合ってもらった。結局、先輩の浮気が原因で別れたけど。
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