こちら、私の彼氏です
だけど、同時に思い出す。


『夕香、最近仕事はどう? そういえば、伊山くんとのこと気になるとか言ってなかった? どうなの、ねぇねぇ』


あれは、社会人になって三ヶ月くらい経った頃だっただろうかな。

同期で仲のいいいつもの女子メンバーで、少し久しぶりに集まってみんなで飲んでいて……

私は同期のひとりにそう聞かれ、思いきり眉間にしわを寄せたんだった。


『仕事できすぎて腹立つ。ムカつく。もう恋愛対象じゃない』


思わず、そんなことを答えてしまった。伊山本人がいなかったからまあいいんだけど。
もうその頃から、伊山はすでに毎日部長に褒められていたんだよね。君は優秀だ、と。


まだ、新人研修をようやく終えたばかりの頃だった。
私も伊山も、本来ならさあこれからって時だった。
少なくとも、私は。

私も、女性社員さんたちからは褒められることが多かったけど、部長からは一度もそういうことはなかった。


べつに、褒められるために仕事をしているわけじゃない。
そんな当たり前のことはじゅうぶんわかっていたけど、こうも毎日、伊山の優秀さを見せつけられていた私は、優秀な伊山に早くも嫌気が差していて、同期の女の子にこう聞かれたことがきっかけで、伊山が私の恋愛対象からはっきり外れたのかもしれない。

どうでもいいけど、伊山のことを『伊山くん』ではなく『伊山』と呼ぶようになったのは、たぶんこの時からだと思う。
< 40 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop