こちら、私の彼氏です
人として当たり前の行動だったかもしれない。でも、たとえ当たり前でも、もしささいなことでも。伊山から私に向けられるやさしさは、とてもうれしいもののように感じた。



その後、私はなんとか歩けるようになり、伊山といっしょに居酒屋をあとにした。

その帰り道。


「福島がそこまで飲むの、珍しいよな」

まだ少しふらつく私と、歩くペースを合わせてくれながら、伊山がそう言った。



……飲みすぎた原因はね、伊山のことを少なからず急に恋愛対象としてまた意識したせいで恥ずかしくなって、その緊張とかドキドキをごまかすために飲みすぎたんだよ、とは当然言えなかった。いくら素直さが大切だということがわかったとしても、それを言うのは無理。


「ごめん……帰るの遅くなっちゃって」

私がそう謝ると、伊山は「全然気にすんな」と言ってくれた。


「でも、予定より全然遅くなって……あっ」

急にめまいがして、またフラつき、私は思わず転びそうになってしまった。


……そんな私を。


「危ね」

伊山が、片手で私の肩を軽々と抱き寄せ、伊山の体で支えてくれた。



思わぬ距離。密着してる。ヤバっ、ドキドキしてるのがバレる……? そう思って、私は慌てて伊山から離れた。



でも……。


自分から離れたのに、離れた瞬間、まだ離れたくない……なんて思ってしまった。

お酒のせいか、思考に冷静さが足りない。


私はゆっくり、伊山の胸に自分の頭を預けてしまった……。



「福島?」

伊山は不思議そうに、私の名前を呼んだ。


きっと今の私は、顔が真っ赤で。慣れない行動、そして慣れない感情。恋をするのなんて実に数年ぶりだ。そう、伊山への恋心を封じこめたあの日から、ほかの誰のことも好きになっていなかったからーー……。



……ああ、そうか。これは……




本当に恋なのかもしれない。
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