こちら、私の彼氏です
恋愛における女性らしい感情も、女性らしい行動も、私はすっかり忘れた。なにをどうすればいいのか、よくわからない。
仕事でも男性に負けたくないっていつも思ってしまう私は、愛理みたいにかわいらしくない。
だから、かわいらしい恋愛の仕方なんてわからない。いや、そもそも恋愛の仕方自体がわからなくなってきてるのかもしれない……。

どうすれば、伊山に気に入ってもらえるの?


……だから、その状態のまま、私は動けなくなってしまった。どうしたらいいのか、本当にわからなくて。


動けないし、動きたくない気もした。いっそこのままくっついていたいような、そんな迷惑で自己中な考えにも襲われていた。


……すると、伊山が。




「……ホテル行く?」

と聞いてきた。



「え、え……?」

私がようやく顔を上げて伊山を見ると、伊山は、

「もちろん嫌なら断われよ」

と答えた。
そんな伊山の様子は、とくにいつもと変わらないように見える。特に照れているようにも見えない。

……慣れてるのかな。

まあでも、彼女じゃない人をいきなりホテルに誘うな、なんて言うつもりはない。むしろ、女性が急に密着してきたら、『ホテル行く?』と聞いてきたくもなるだろう。お互い酔っているし、なおさら。


……だから、私も。



「……うん」

と、もう一度伊山の胸の中に顔をうずめ、小さく頷いた。

身体を重ねるのは私のことを好きな人じゃないと嫌、なんて言うほど子どもじゃない。

でも、プライドが高めの私が、私のことを好きじゃない人と身体を重ねるなんてことはきっとありえないな、と今まで思っていたのも事実だった。



……私がどんどん私が私らしくなくなる。


でも、きっと。自分のことすら見えなくなるくらい、私はそれだけ伊山のことをーー……。



私たちは、少し遠めに見えたラブホの看板に向かってふたりで歩いていった。
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