こちら、私の彼氏です
「ねえ、いったいなんなの?」

愛理の家を出てしばらく歩いたところで私は伊山にそう尋ねるけど、


「ん? うん」

伊山は適当な返事をするだけで。



「ていうか、手!」

「あ、うん」

私の言葉に、伊山はまた適当に返し、私から手を離した。

手をつないでることに気づいても、この間みたいに照れて慌てる様子はない。
もう異性としてなんの意識もされてないからなのかなと思えて、なんだか寂しくなってくる。



「……今日の夕方、愛理ちゃんから電話が来た」

伊山がその場に立ち止まって、ゆっくりと私の質問に答えてくれる。私もいっしょに足を止めて、伊山を見つめる。



「なんで、愛理が伊山の電話番号知ってるの」

「初めて会って飲んだ日、お前がトイレで席外した時に聞かれて、交換した」

「……それで、愛理は電話でなんて言ってたの?」

「お前が、泣きそうになりながら『好きな人とうまくいかない』って言ってたけどケンカでもしたのか、って聞かれた」

「え……」

「ゆうちゃんを泣かせたのか、大事にしてないのか、って怒られた」


そうなの……? 私、愛理にひどいこと言ってたのに……。

謝れたのは、ついさっき。だから、愛理が伊山に電話をした今日の夕方は、愛理はまだ私に対してすっきりしてない気持ちもあったはずなのに……。

それなのに、そんな風に私のことを心配して、伊山に怒ってくれてたんだ……。


……やっぱり、愛理には敵わないなぁ。

きっと、ずっと気にかけてくれていて、私が夜に愛理の家に行くっていう話を弘樹さんから聞いたことで、今日ついに伊山に電話をしてくれたんだと思う。
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