こちら、私の彼氏です
「福島、俺は……」

「わ、わかってる。ていうかもう聞いたし。もうフラれたし。

……でも、伝えたかっただけなの。一度フラれたら『好き』って言葉をもう二度と言っちゃいけないわけじゃないから。って、さっき愛理に言われたから」

「……」


伊山は、困ると頬をかくのがクセなんだろうか。今日何度目かのそのクセをまた私に見せて、そして。


「わっ」

右手を私の頭に乗せると、ぐりぐりと頭を回してきた。


「ちょっと、なにすんの!」

「お前さ、フラれたフラれたって言ってるけど……まぁ確かにフッたんだけど」

「なに、なんで傷口えぐってくるの」


すると伊山は私の頭から手を離して……。


「お前のこと、入社当時は気になってたって言ったじゃん。でも、お前が冷たくなったから、俺はお前への気持ちをあきらめたんだよ。そんで、もう二度とお前のことで傷つきたくなかったから、俺はお前をフッたんだよ」

「なに。わかってるよ」

「わかってない。冷たくされたからあきらめたのなか、冷たいどころかそんな風に何度もまっすぐに告白されたら……



一度はあきらめた気持ち、また復活しちまうだろ」




「え……?」



伊山は右手で口もとを覆い、私から目を逸らしていた。気づけばこんな時間で、街灯があまりない道だから辺りは真っ暗だけど、それでも、伊山が照れているというのはよくわかった。



「なっ……そ、そういうこと言わないでよ! もう一回フッてよ、ここは!」

「なんで! つぅか、ほんとは入社してからずっと気になってはいたんだよ! あきらめきれなかった部分もあったんだの!」

「なっ⁉︎ そ、そんなこと言われたって信じられないよ! だって、いろんな女の子と遊んでるんでしょ! 最初にホテルに行った日に、『彼女じゃない人との時はキスするかどうかはいつも悩む』みたいなこと言ってたじゃん!」

「遊んでない! あれは、お前も軽い気持ちだと思ってたから、俺も軽い気持ちのフリしようとしてたんだよっ」

「な……っ、え……っ!」


……じゃ、じゃあ、そこは私の誤解?
それどころか、伊山も私のこと、ずっと……?


私たち、出会ったときからずっと、似たような気持ちだったの?



「……で、でも! もう一回フラれて、でもまだあきらめずにがんばるからって言う流れだったじゃん! ほ、ほんと空気読めないな!」

「空気読めないってなに⁉︎ ここで恋人同士になってハッピーエンドじゃダメなの⁉︎」

「ダメ‼︎」

「なんで⁉︎」
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