こちら、私の彼氏です
「今みたいにって?」

「ごちゃごちゃ考えずに、思ったことをそのまま言えばいいんだよ! ゆうちゃんの目を見て、ゆうちゃんだけに!」


目の前でそんな会話をされると、死ぬほど恥ずかしい。なんとも言えない気持ちになる。

え? 告白されるの? ここで? 伊山に?

伊山は私のことちゃんと好きでいてくれて……? え?



「うーん、でもここ数日、いい言葉をちゃんといろいろ考えてはいたんだけど」

「……この際なんでもいいよ。恥ずかしいから、言うなら早く言って」

羞恥に耐え切れず、私がそう言うと、伊山は……。



「うーん、じゃあ、適当に。


愛理さん、弘樹さん。



こちら、俺の彼女です」







「……!」

適当、って本人も言ってるのに、そんな適当な言葉にも、胸がときめいて仕方なかった。

顔が赤くなるのが、ガマンできない。

愛理も弘樹さんも、にこにこして私たちを見るから、余計に恥ずかしくなる。



……本当は両思いだったのに、伊山が気の利く言葉を思いつかなくて、そのせいでずっとあいまいな関係だったなんて。

本当にムカつくし、こんな奴にやっぱ仕事で負けたくないって思うし、それでも……。



「……うん、そう。私たち、付き合ってます」




ーー出会った頃に始まりかけた小さな恋は、一度はその姿をさらに小さくしてしまったけれど、いつしかまた膨らんで、どんどん大きくなって。

つぼみが花開いたような、



そんな感覚だった。
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