こちら、私の彼氏です
「じゃあさ」

そう言って、伊山は私の右手をぎゅっと握った。


「ひゃっ」

突然のことに、胸がきゅんと締めつけられるような感覚がした。



「じゃあさ、慣れてよ。それしかない」

「慣れる……?」

「つうか、そんな初々しい反応すんなよ。初めて恋人ができた中学生じゃないんだから」

「う、う……そうだけど……」

「……そんなかわいい反応されたら、俺だって緊張するだろ」

「え……?」



……あ。

ようやく伊山の顔を見たら、伊山も赤くなっていた……。


伊山はこっちを見ない。


でも、耳まで真っ赤じゃん。


バカ……。なんてことないフリしてさ……本当は、伊山だって緊張してたの……?



伊山だって、素直じゃないじゃん。でも……



嫌じゃないよ。




「……わかった。慣れるようにする」

「うん」

「とりあえず、この手、離そう。それから、普通に手つなごう」

私がそう言うと、伊山は、

「……その前に、目つむって」

と答えた。


「え……?」

伊山の表情は、真剣そのものだった。


目を、つむる? ここで?


それってやっぱり……キス、かな?



私は辺りをぱっと見回すけど、もともと薄暗くていつも人通りの少ない道のため、今は周りに私たち以外の誰の気配もない。



……私は、ゆっくり、目をつむった。そして、唇への感触を待った。



……すると。




ーーカシャン。


「……ん?」

思わず声を出してしまったものの、一応まだ目はつむっている。


唇への感触は、ない。



その代わり、奇妙な無機質な音とともに、右手首に変な冷たさを感じた。
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