映画のヒロイン*短編*
「うっ…なんてことだ。…まさかあんな展開になるとは」
「お前、よくあんなんで泣けるよな。奇跡に近いと思うんだけど」
二時間弱、なんだかんだ最後まで映画に付き合ってくれたこいつはあきれたようにそう呟いた。
「素直じゃないのは良くないな。私は知ってる、貴様がクライマックスで目に涙を浮かべていたのを」
「…勝手に記憶を捏造すんな。あとそれなにキャラだよ」
私の衝撃カミングアウトにも動揺する様子を見せず、むしろ先ほどより冷たい目を向けられた。
その目で否が応でも現実に引き戻らされる。
画面の中の豪華な城、ではなく汚い普通の自室で私はため息をついた。
「あーあー、誰か超絶イケメンが王子様のごとく迎えに来てくれないかなー」
「王子様は知んねえけど超絶イケメンなら目の前にいるじゃん」
「あーあー、誰か超絶イケメンが王子様のごとく迎えに来てくれないかなー」
「あれ、おかしいな、聞こえてなかった?王子様は知らねえけど超絶イケメンなら目…」
「聞こえてない振りしてるのに気づいて欲しいんですけど」
ほら、と両腕を広げたそいつにクッションと共に言い放つ。
投げたクッションは危なげなくやつの手のひらに吸い込まれた。