姉弟ごっこ
「本当に、ここで一週間暮らす気?」
「なにを今更。ダメっつわれても、俺もう他に行くとこないよ」

だよねぇ。
哲史ママに頼まれたお母さんの手前、追い出すのも気が引けるし。

「ていうか、なんで一週間なの?」
「なに、もっといて欲しい?」

ぐるりと首を回して振り向いた哲史が、にやりと嫌味ったらしく口角を引きつらせた。

はあ??
と、最大のボリュームで心の中で叫ぶ。

「ふざけたこと言わないでよ。ただでさえ私、まだこの状況に頭がついていけてないんだから」
「別に俺、ふざけてないけど?」

頭を抱えた私に対し、哲史はきょとんとした顔で返した。

「だったらさ、ちゃんとルールとか決めようよ」
「ルール?いいよ」
「まずこのベンチ、あんたの個室に運びなさい!」
「え~、入んないもん。狭くなるしぃ」
「しぃ~じゃないの。だったら持ってくんな!床に傷がつくし、外に置きなさい」
「やだよ、これ大事なものだから傍に置いときたいんだ」

哲史はしゅんと眉を下げた。
こういうね、瞳を濡らした子犬のような目で見られると、昔から私は哲史に弱い。

「っもう……」

それは芽衣子も同じだった。
私と芽衣子は二人して、弟分である哲史のわがままにうんざりしていたけれど、なまじ産まれたときから知ってるせいか、あんなに小さかった哲史が頑張って自己主張している、心許ないところがまた可愛いじゃない、少しのわがままくらい大目に見てあげよう、となるのだった。
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