姉弟ごっこ
「あいつマジでバカじゃないの!?」

ぶつぶつ言いながら玉ねぎを刻む。
ねぇちゃん、ねぇちゃんっていっつも後ろついてきて、シャツの裾掴んで離さなかった哲史が、とんだ下ネタ野郎に成り下がっちゃってたよ。悲しいわ。

体だって、ただ図体だけでかくなってた訳じゃなかった。
私は首をぐいっと伸ばし、リビングに設置されたベンチを見た。家具職人って、結構体力使うんだろうな。
腕も胸も筋肉の線が出来ていて、服を着てればひょろりとした体型に見えるけど、意外とがっちりしていたなぁ。

なんて、ぼんやりと考えていたとき。

「うっわ、これって微塵切り?」

突然背後から声がして、私はぎょっとした。
体からほかほかと湯気を上らせた哲史は、私の隣に立つと、まな板から玉ねぎの塊をつまみ上げる。

「めっちゃ繋がってっけど」
「だったらあんたも手伝ってよ」

扇子みたいになった玉ねぎの塊を奪い返すと、私は力任せにザクザク切った。

「でも俺ってほら、職人だから手が命じゃん?怪我でもしたら仕事になんないじゃん?」

ったく、なんてふてぶてしい奴。

「いつも芽衣子がやってたんだろ?どうせ」

呆れた声で、哲史が呟いた。図星だったから、私は口を結んだ。

「昔っから、芽衣子の方がいい奥さんになりそうだったもんな」

ぽつりと言った哲史は、眉を下げて笑った。
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