姉弟ごっこ
* * *
手を真っ黒にして砂場に水路を作って、水呑場でバケツに汲んだ水を勢いよく流した。
でもどんどん砂に吸い込まれて、水は染み入ってすぐに干からびる。ちっちゃい哲史がわんわん泣くから、芽衣子と私は必死になって熊手で水路を掘った。
震わせる肩に手を乗せて哲史を励ますのは、いつも芽衣子の役目だった。そうすれば哲史は泣き止んだ。
私はというと無謀だと分かっていながらにして、哲史の水路を干上がらせないように深く深く、堀り続けた。
それから20年経って。
わんわん泣くのは芽衣子の番だった。結婚式で哲史が、芽衣子のために薔薇のアーチを作った。
そこを新郎と一緒に潜って、キラキラと降り注ぐ木漏れ日と親類や友人たちからの祝福を浴びた芽衣子は、幸せの涙を流した。
『昔っから、芽衣子の方がいい奥さんになりそうだったもんな』
結局あの後、哲史だって味付けくらいは出来るってなって。
私たちは玉ねぎと卵とハムが入った炒飯を食べた。彩りは、まあ良かった。味付けも結構美味しかった。
でも、静かだった。食卓にはカチャカチャとスプーンがお皿にぶつかる音だけが響き、沈黙が流れていた。息苦しかった。
芽衣子がいないこの部屋で、一週間暮らしたいという哲史の気持ちは、私には到底理解出来ない。
芽衣子が使ってた部屋で思い出にでも浸りたいのか、はたまた幸せになった彼女とケジメをつけるつもりなのか。
「おはよー」
寝癖のついた髪の毛を指先でわしわし掻きながら、哲史が起きてきた。
手を真っ黒にして砂場に水路を作って、水呑場でバケツに汲んだ水を勢いよく流した。
でもどんどん砂に吸い込まれて、水は染み入ってすぐに干からびる。ちっちゃい哲史がわんわん泣くから、芽衣子と私は必死になって熊手で水路を掘った。
震わせる肩に手を乗せて哲史を励ますのは、いつも芽衣子の役目だった。そうすれば哲史は泣き止んだ。
私はというと無謀だと分かっていながらにして、哲史の水路を干上がらせないように深く深く、堀り続けた。
それから20年経って。
わんわん泣くのは芽衣子の番だった。結婚式で哲史が、芽衣子のために薔薇のアーチを作った。
そこを新郎と一緒に潜って、キラキラと降り注ぐ木漏れ日と親類や友人たちからの祝福を浴びた芽衣子は、幸せの涙を流した。
『昔っから、芽衣子の方がいい奥さんになりそうだったもんな』
結局あの後、哲史だって味付けくらいは出来るってなって。
私たちは玉ねぎと卵とハムが入った炒飯を食べた。彩りは、まあ良かった。味付けも結構美味しかった。
でも、静かだった。食卓にはカチャカチャとスプーンがお皿にぶつかる音だけが響き、沈黙が流れていた。息苦しかった。
芽衣子がいないこの部屋で、一週間暮らしたいという哲史の気持ちは、私には到底理解出来ない。
芽衣子が使ってた部屋で思い出にでも浸りたいのか、はたまた幸せになった彼女とケジメをつけるつもりなのか。
「おはよー」
寝癖のついた髪の毛を指先でわしわし掻きながら、哲史が起きてきた。