悪魔な彼が愛を囁くとき
意識しているって思われるじゃない。
「真ん中が美味いな。口に含んだ時の深みといい、舌に残る苦味も前のより断然いい。これで目づまりしないならこれでいこう」
確かに、比べて飲んでみると真ん中が美味い。
お客さんに今までの味と違うと指摘され美味しく感じられなかったらイメージダウンになる。
「よかった…気にいってもらえて。あっ、新しい豆もサンプルで持ってきたんです。はい、どーぞ桐谷さん…酸味が強めなんですが彼氏と飲んで見てくださいよ」
「…どーも。でも、彼氏と別れたばかりなんですよね。あははは…」
受け取りながらボヤいていた。
「無神経なこと言ってごめんね」
「いえいえ、気にしてないですから…逆に気を使わせてしまってすみません」
「いや、僕の方こそ…いつか一緒に飲もうか?」
「一緒にですか?」
「そう、一緒に…僕も今はフリーだし桐谷さんがよければ一緒にコーヒーを飲もう」
「あっ、はい」
「じゃあ、僕はこれで失礼します。都合が悪かったら、すぐにご連絡ください」
「ありがとうございます。『お疲れ様でした』」
佐賀さんは、頬を染めていそいそと次のところに行ってしまった。