悪魔な彼が愛を囁くとき
何事もなかったように振る舞い、切り替えの早かった男は今日もよろしくと手をあげ、どこかへ……
私は離れていく男の背を憎らし気に見つめていた。
おい…
いい訳ぐらいして行ってよ。
綾乃さん、怪しんでいるって…
「……綾乃さん、おはようございます。さっきまでコーヒーメーカーの方が来られてて…ほら、目づまりの事を相談したんです。豆の粗さをかえて飲み比べして店長とこれがいいってことになって……綾乃さんも飲んでみてください」
一気に捲し立てていい訳する。
「……う‥ん。頂くわ」
新しくコーヒーを落としてビクつきながら綾乃さんに渡す。
今の見られてたよね…
何か言われるんじゃないかと緊張で震える手が、コーヒーカップの中身を揺らしていた。
「……うん、美味しいね」
「ですよね。これで目づまりしなくなるなら万々歳ですよ」
「そうだね…」
ニコッと笑う綾乃さんの目が怖い。
「……朝の…準備しましょうか⁈」
その場から逃げようとする私に
「そんなに脅えなくてもいいのに…私、何も見なかったわよ」
見なかったわよって…
それってあきらかに見てましたって言ってるのと同じことですよね。