悪魔な彼が愛を囁くとき
呆れた表情で私を見ている2人。
「凛ちゃん…鈍い子だと思ってたけど、ここまでニブチンだとはね……本当にわからない?」
「……はい」
「なら、わからないままでいなさい。悩みを増やす必要はないわ」
…悩むのは店長だけで充分です。
その後、お迎えの時間がきて解散することになり、なんだかホッとした。
レジで支払いをしようと3人で行けば、既に支払いが済ませてあると言われる。
店員が指差すそこには、普段見慣れたはずの男なのに‥かもし出す雰囲気が違うのはどうしてだ?
よっと手をあげ、タバコの煙を吹かす男。
そうか…
店長がタバコを吸うところなんてはじめて見たからだ。
綾乃さんと佐和さんは店長に向かって
「ごちそうさまです」
と声をかけたので私は頭だけを下げる。
「それじゃ、凛ちゃん‥また明日ね」
2人とも手を振り、お店を出て行こうとする。
あの…私も一緒に連れて行ってください。
追いかけようと踏み出した足を止めたのは、私の名前を呼ぶ男の声。
それは、どこか甘みを含んだ低い声だった。
「りん…」
金縛りにあったように動けない。
ふわっと甘い香りとともに背後から手を引かれていた。