悪魔な彼が愛を囁くとき
手持ちぶたさに、タバコに手を伸ばす男から甘い香りが漂ってくる。
先ほど抱きしめられた時にも感じた香り
この香り、好きかも…
タバコの箱のBlack devilと言う銘柄に、笑みがこぼれてしまう。
悪魔は、悪魔のタバコを吸うのか⁈と…
この甘い香りは、男から漏れる色気と同じかもしれない。
惹きつける魅惑の香りに包まれ、クラクラと逆上せ男の肩に頭を乗せて目を閉じていた。
ピクッと揺れる男の肩
何も言わず、そのまま肩を貸してくれていた。
肩越しに伝わる男の温もりが心地よく、沈黙が辛くないと思えるなんて初めてかもしれない。
いつまでそうしていたのかわからないが、気がつけば店内は賑わい始め、かかっていた音楽もゆったりとしたものからアップテンポな曲に変わっていた。
「食べていくか?」
パパさんこと大輔さんの声に我にかえりビクッと頭を起こした私。
その動作に可笑しく笑う大輔さん…と思いきや彼の視線の先は、今しがたまで肩を貸してくれていた男にだった。
「……邪魔して悪かったな。でも、いい加減何か注文してくれよ。ないならさっさと帰れ」
不貞腐れた顔で首をコキコキと鳴らした男は大輔さんからメニューを受け取った。