悪魔な彼が愛を囁くとき

もう、その後は上の空だったに違いない。

空気の冷たさに気がつけば、お店を出て夜空の下を男と手を繋いで歩いている。

会話もないのに、この時間がもっと続けばいいと願ってしまうのはどうして?

緑化公園の中、数十メートル続く桜並木目指して歩みを進め風に運ばれてきたチラチラ舞い散る花びらに手を出し取ろうとするけど、花びらが手のひらからこぼれていく。

悔しがる私を見て笑う男の顔からは、優しさがあふれているのは気のせいだろうか?

ベンチに腰掛け、隣同士で座る距離がないことにドギマギして、繋いだ手が男のコートのポケットに一緒に入り、指を絡めてくることにあたふたして、花の香りと違う甘い香りが男から香りクラクラして、夜桜の妖しく綺麗な花びらが散る光景に酔いしれて…

「…じん」

男の名を呼んでしまった。

それが男のスイッチだったようで、急に体の向きを変え囲うように空いた手がベンチの背をつかんでいた。

「……」

見つめ合う男の瞳は、艶めかしく光り引き込まれてしまう。

目が離せない。

「……凛」

ただ、名前を呼ばれただけなのに…、魅惑的な唇から甘さを含んだ声がしただけで、引きつけられたように男の唇に触れていた。
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