悪魔な彼が愛を囁くとき

「……」

この状況で…そんなことできるか。

真っ赤になった顔のまま目と鼻の先にある顔を、両手で押しのける。

「無理に決まってます。仕事してください」

「なんでだよ」

私の両手首を掴み、自分の顔から引き剝がした。

「なんででもです」

チッと舌打ちして、いつもの不機嫌な表情で…

「今は逃がしてやる」

鼻先をぎゅっとつまみ口角を上げてドアを開けた。

「あら、もういいの?5分経ってないわよ」

「うっせー…もう少しだったのに邪魔しやがって…出勤時間早いんだよ」

佐和さんに悪態をつく店長。

「ごめんなさいね…これからはギリギリに出勤するわよ」

「あぁ、そうしろ」

幼馴染みだからこそいい合える口喧嘩。

いや⁈
ちょっと待て…

「今まで通りに出勤してください。お願いします」

必死に懇願する私は、佐和さんに駆け寄りすがりつく。

社員の私の出勤時間は決まっていて、朝番の負担が私にくる⁈イヤ、そんなことじゃなく朝から店長と2人きりにさせられるのは身がもたない。

「…だそうよ」

ふふんと勝ち誇る佐和さん。

「……仕事始めろ。……凛、外窓、綺麗に拭いておけよ」

怒りは私の方に向いたようだ。
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