悪魔な彼が愛を囁くとき

うわーんと泣き崩れる佐和さんに駆け寄る男の影。

「手加減したから大丈夫だ。佐和を連れて帰れ」

仁の掛け声に反応して、こちらをちらっと見ると頭を下げた男性は、佐和さんを連れて近くに止めてあった車に乗せて行ってしまった。

それを見送る私達。

「佐和さん、大丈夫かな?」

ボソッとつぶやいた私の声に

「あいつなら大丈夫。空手経験者に向かって刃物を持ち出したのだってあいつなりの最後の悪足掻きだ。それより自分の心配をしたらどうだ?」

なんのこと?

首を傾げていると、フンと鼻先で笑われて

「覚悟が足りないみたいだな」

「………」

思考が停止する。
そして、蘇る記憶に頬がボッと熱くなっていた。

「思い出したか?覚悟しておけよって念押ししておいたのに、覚悟もなく煽ってくるのは無自覚ってやつか⁈」

いや…煽った覚えないんです。

首を左右に違うと振るも、意地悪く笑う男はどんどんと階段を上っていく。

あっと言う間に登りきると、鍵を開けてドアを開いていた。

明かりがついた先にはの見覚えのある柵とその向こうには大きな窓ガラス。

下から見上げていた柵の向こう側に、こんな空間があったなんて…
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