最果てでもお約束。
「アキラ、バイクで行くよ」
「まじっすかー!?」
最高時速30kmしか出ない安いだけが取り柄のマイ原付に跨り、ヘルメットをアキラに放り投げる。もちろんぼくはノーヘルになるが、そもそも原付で二人乗りは禁止だ。
でもまぁ・・・この事態で警察が町中にいる事はまず無いだろう。基本的に国家権力の方々は町の事に介入してこない。4国からの宣戦布告も日本政府に送られたものでは無く、この町にだけ送られたものだろうし。
「盗んだバイクでいきますかー!」
「いやぼくが買ったんだってば」
若い割にはよく知ってるけれど、お前まさかそこの歌詞しか知らないんじゃないだろうな?
バイクスタンドを立てたままスターターでエンジンをかける。買ってまだ半年もたたないバイクは先日動かさなかった事に恨み言の一言も言わずに始動してくれた。
「んで、どこに行きます?」
あ、そういやまだ言ってなかった。
「町が危ない事になってるからな、アキラを北から出す」
スタンドを蹴っていつでも走れるようにアクセルを少しだけ回す。
「えーっ!?後1日くらい居たいし西から歩いて出たいんですけどっ」
馬鹿・・・そんな事してみろ。
「・・・殺されちゃうぞ」
ぼくはその時どんな表情だったろう。少なくとも、いつも元気でうるさいアキラが黙ってぼくの後ろに乗る程にはシリアスな顔だったのだろうけれど。
「気持ち悪い事言っていい?」
「・・・・・・」
ぼくは黙ってアクセルを徐々に回してエンジンの回転数を上げる。
少しずつ動き出したバイクの音でアキラのつぶやきはかき消されそうになった。
「寂しいなぁ」
ぼくはそのつぶやきを、エンジンの音で聞こえないふりをした。

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