最果てでもお約束。
「ちょ・・・どこ行くんです?」
唐突なのはいつも通りで、そして今度もどこに行くかきっと教えてくれないだろうと思いながらも聞いてしまう。
しかしその予想は軽く受け流され、彼は立ち止まり振り返った。あの凶灯を両目に宿して。
「信じれるか?4国の人間を斬ってもなんとも思わなくなったんだ」
こっちが信じられなかった。彼の両目から涙が零れていたから。
「あんなに憎かったのに。あんなに復讐を誓ったのに。夜も眠れない程に憎んで、憎んで、憎んだのに、もうなんとも無いんだ」
ぐしと日本刀の収まった鞘を持った腕で涙を拭う。でも涙は後から後から零れた。
「妹の声が、思い出せなくなったんだ!どんな声で!どんな顔で笑っていたのか!霞がかって・・・もう・・・もう・・・・」
見るだけで命を削られそうな凶眼から、全身を濡らすかのような涙が零れる。
その姿はまるで・・・捨てられた・・・・犬のようで・・・
「4国に行って・・・死ぬまで、妹の声が思い出せるまで斬る」
そう言って彼はまたこっちに背を向けて歩き出す。ぼくは何か言わなきゃいけない。
それは間違ってるでも、さようならでも、言わなくちゃいけない。何か。言わなくちゃ。
「・・・・あ」
ぼくがその何かを口にしようとした瞬間、真後ろから声。
「ゆっくり休んで、眠ればきっと思い出せるよ」
アキラもあの眼を見たはずだ。あの涙を見たはずだ。あのやり場の無い憎しみを見たはずだ。けれど、その声は信じられない程柔らかくて、優しくて。
それを聞いて彼は日本刀を持った腕を無言で真上にあげる。ありがとうと言うように。
「彼にはこれで良いんだよ」
アキラの力ない声。
結局ぼくは、彼に何も言えなかった。
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